凍える惑星

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読書感想:くらやみの速さはどれくらい

※以下ネタバレあり

 

二十一世紀の「アルジャーノンに花束を」と謳われていたので、以前からずっと読みたいと思っていたのですが、ずっと後回しになっていました。

というのも、「アルジャーノンに花束を」は何年も前に読んでいたのですが、内容がなかなか精神的に辛くてですね…。小説を読んでこんなに泣くことはないだろうというくらい号泣しまして、普段小説を読まない人に勧めたい図書上位に入るレベルで名作だと個人的に思っています。しかし、主人公に対する容赦ない展開に精神的負荷がものすごいかかってしまいました。なので、今作もおそらく素晴らしく面白いのだろうけど、その分とても辛くなってしまうのではと思い、なかなか手が出せないでいました。

 

実際読んで思ったのですが、これ紹介文に「アルジャーノンに花束を」を載せいないほいがいいのでは…。

確かにアルジャーノンのように障害を抱えた主人公(今作では自閉症)を中心に物語がすすみ、健常者になれる治療を勧められ…という流れではあるのですが、似たところはここぐらい。

まず、健常者になる治療を受けるまでが長い。というか、メインの話が自閉症を抱えて生きていく場面で、治療を始めるのはラスト50ページほどです。そして治療後はあっさりと描かれて終わり。想像してたのと違った…。

アルジャーノンに花束を」では、障害を抱えた主人公が治療を受けた結果、知能面で目覚ましい成長を遂げるのですが、反面、変わってしまった自分自身のこと、知らなかったことを知ってしまったことなどの新しい問題に直面することになります。そしてあの救われないラスト…。

「くらやみの速さはどれくらい」では、治療が成功し、健常者と同じ思考と行動を手に入れた主人公は、自閉症の頃には絶対に不可能だった夢を叶えることができ、本当に幸せそうです。その代わり、自閉症だった頃に好きだったモノには興味を失ってしまいます。あんなに好きだった人に再会しても何とも思わない。しかし、本人は気にする様子もないです。それよりも希望溢れる自分の未来に期待と夢を膨らませます。彼は治療を受けたことにとても満足している状態です。あの終わり方的に、恐らく彼は夢を叶え、幸せに満ちた人生を送るように思います。

主人公は確かに変わった。しかし、何か問題があるのでしょうか?彼は変わってしまったことに何の後悔も感じていません。

むしろ変わったことを1番気にしてるのは周囲人間でした。自閉症でありながらも、主人公には主人公の考えがあると個人を尊重し、得意なことといった個性を認めていた彼らが、治療を受けることに慎重でした。

 

結局人間どうあるのがいいのか。個性なんてのは何なのでしょうね。